家賃だけでは分からなかった。プロパンガスと浄化槽で知った海辺の家の「見えない維持費」
東京を離れて海辺の町へ。そこで初めて出会ったプロパンガスと浄化槽
コロナ禍で外出しにくい日が続いていた頃、「一度くらい海の近くで暮らしてみたい」と思い、千葉県の海辺にある町へ引っ越しました。
私はソウル出身で、夫も同じく都会育ちです。二人とも田舎で暮らした経験はほとんどありませんでした。
海が好きな私にとって、海辺の家は憧れでした。家賃や間取り、海までの距離を見て、「ここなら気持ちよく暮らせそう」と決めたのを覚えています。
ところが、実際に暮らし始めると、都会では気にしたことのなかった違いが次々に見えてきました。
海に近い分、風が強く、強風注意報が出る日もあります。夜になると周囲は想像以上に暗くなり、車を運転していると道路脇から野生動物が飛び出してきて、慌てたこともありました。
そして、家計の面で特に驚いたのが、その家が都市ガスではなくプロパンガス、公共下水道ではなく浄化槽を利用する住宅だったことです。
契約書を確認したときには説明を受けていたはずですが、当時の私は家賃や初期費用ばかりを見ていました。
「プロパンガスと都市ガスでは何が違うのか」
「下水道ではなく浄化槽だと、どんな費用がかかるのか」
そこまで考えていなかったのです。
水道料金を払っているのに、浄化槽の費用は別だった
住み始めてしばらくすると、浄化槽の管理会社から定期的に連絡が来るようになりました。
担当者が訪問し、浄化槽の点検や清掃を行い、その後に料金を支払います。最初は「水道料金を払っているのに、なぜ排水の管理費を別に払うのだろう」と不思議に感じました。
公共下水道を利用する家では、一般的に水道料金と一緒に下水道使用料が請求されます。一方、浄化槽のある家では、敷地内に設置された設備で生活排水を処理するため、保守点検や清掃、法定検査などの維持管理が必要になります。
私が住んでいた山武市では、浄化槽の保守点検は4か月に1回以上、清掃は年1回以上と案内されています。また、それらとは別に、浄化槽が正常に機能しているかを確認する法定検査も毎年1回必要です。
つまり、私が「1年に一度くらい清掃会社が来ていた」と記憶していたのは間違いではありませんでした。
ただし、浄化槽にかかる費用は全国一律ではありません。設備の大きさや種類、利用人数、地域、管理会社との契約内容によって変わります。賃貸住宅の場合は、大家さんが負担するのか、入居者が負担するのかも契約ごとに異なります。
下水道と浄化槽では、お金の払い方が違う
| 項目 | 公共下水道の住宅 | 浄化槽の住宅 |
|---|---|---|
| 排水の処理 | 自治体の下水道施設 | 敷地内の浄化槽 |
| 主な支払い | 下水道使用料 | 点検・清掃・法定検査など |
| 日常の管理 | 基本的に自治体側 | 個別の維持管理が必要 |
| 清掃費 | 個別の浄化槽清掃は不要 | 定期的に発生 |
| 費用の確認先 | 自治体の料金表 | 契約書・大家・管理会社 |
下水道の家にも下水道使用料がかかるため、浄化槽だけが一方的に高いとは言い切れません。
ただ、下水道使用料は水道料金と一緒に請求されることが多いのに対し、浄化槽は点検費や清掃費が別々に請求されることがあります。そのため、慣れていない人には「予想外の出費」と感じやすいのだと思います。
退去するときに求められた「清掃済みの領収書」
浄化槽の費用を最も強く意識したのは、その家を退去するときでした。
海辺の暮らしには魅力もありましたが、強い風や夜道の暗さ、移動の不便さを考え、私たちは成田へ引っ越すことにしました。
成田なら日本と韓国を行き来しやすく、仕事の面でも便利です。海辺の生活と都市生活の中間くらいが、私たちには合っているように感じました。
退去の手続きを進めていると、大家さんからこう言われました。
「浄化槽を清掃して、領収書を提出してください」
それを聞いたときは、正直驚きました。
退去時の室内清掃なら想像できますが、浄化槽まで清掃してから出るとは思っていなかったからです。
清掃会社へ連絡して作業を依頼し、費用を支払い、受け取った領収書を大家さんへ提出しました。環境省も、浄化槽の保守点検や清掃の記録は3年間保管し、法定検査の際に使用するものと案内しています。
私の場合は賃貸契約上、退去時の清掃と領収書の提出が必要だったのだと思います。すべての賃貸住宅で同じ対応になるわけではありませんが、契約前に確認しておきたかった項目の一つです。
プロパンガスも、都市ガスと同じ感覚では考えられなかった
浄化槽と同時に、生活費の違いを感じたのがプロパンガスでした。
住んでいた当時は「ガスはどこでも同じようなものだろう」と思っていました。しかし、後から家計を見直してみると、都市ガスの家に住んでいたときより、ガス代が高くなっていることに気付きました。
経済産業省の調査でも、住宅条件によって差はあるものの、LPガスの料金は都市ガスより高い傾向が示されています。特に賃貸の集合住宅を対象にした調査では、都市ガスよりLPガスの月額料金が大きく上回る結果も報告されています。
都市ガスとプロパンガスで違いを感じた部分
| 項目 | 都市ガス | プロパンガス |
|---|---|---|
| 供給方法 | 地下の導管 | ボンベなどで個別供給 |
| 料金設定 | 地域の事業者が設定 | 販売会社や契約で異なる |
| 料金の印象 | 比較的把握しやすい | 会社ごとの差を感じやすい |
| 物件選び | 供給地域が限られる | 都市ガス未整備地域でも利用可能 |
| 契約時の確認 | ガス会社・料金プラン | 基本料金・従量料金・設備費 |
海辺の家では、プロパンガスに関する営業の電話や案内を受けることもありました。
会社を替えれば安くなるという話や、料金を見直しませんかという営業が意外に多く、プロパンガス会社同士の競争の強さを初めて感じました。
実際に住んでみて「プロパンガスや浄化槽が不便だった」というより、「料金の仕組みを何も知らずに契約していた」という感覚のほうが近いです。
どちらも都市ガスや公共下水道が整備されていない地域の暮らしには欠かせないものです。ただし、同じ家賃の物件でも、設備によって毎月・毎年の支出の形が変わります。
月5,000円安い家でも、本当に安いとは限らない
賃貸物件を探していると、どうしても最初に家賃を比較します。
例えば、ある物件の家賃が別の物件より月5,000円安ければ、年間では6万円の節約に見えます。
しかし、その家がプロパンガスと浄化槽を利用している場合、ガス料金の差や浄化槽の点検・清掃費を含めると、実際の年間負担は想像ほど安くない可能性があります。
反対に、公共下水道の家でも下水道使用料はかかります。大切なのは「どちらが絶対に安いか」と決めつけることではなく、その物件で一年間に必要となる費用を確認することです。
今なら契約前に、少なくとも次の点を確認します。
都市ガスかプロパンガスか
公共下水道か浄化槽か
プロパンガスの基本料金と従量料金はいくらか
浄化槽の保守点検、清掃、法定検査の費用はいくらか
その費用を大家と入居者のどちらが負担するのか
退去時に浄化槽清掃や領収書の提出が必要か
金額は不動産会社の物件情報だけでは分からないこともあります。その場合は、契約書や重要事項説明書を確認し、大家さんや管理会社へ聞いておくほうが安心です。
以前の私は、駅からの距離、家賃、間取りを先に見ていました。
今は物件を見ると、まず設備欄を確認します。
都市ガスなのか、プロパンガスなのか。
公共下水道なのか、浄化槽なのか。
海辺の家で暮らしたことで、家賃だけでは住まいの本当の負担は分からないと知りました。
憧れて始めた海辺の生活でしたが、そこで経験した浄化槽の定期清掃や退去時の領収書提出、プロパンガスの料金は、住まいのお金を見る視点を変えてくれました。
家賃が安く見える物件ほど、契約する前に「毎月いくら払うか」だけでなく、「一年間で何にいくらかかるか」まで考えてみることが、後悔を減らす一番現実的な方法だと思います。
参考資料
山武市「合併浄化槽」「浄化槽の水質検査(法定検査)について」
環境省「浄化槽Q&A」「令和5年度における浄化槽の設置状況等について」
経済産業省・電力・ガス取引監視等委員会「わが家の電気・ガス料金しらべ」



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